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2013年1月 9日 水曜日

相続・遺言トラブル事例~親の介護をするのは損??寄与分の問題~

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弁護士の伊藤です。

高齢化社会を迎え、ご両親の介護に直面するご家族が増えています。

兄弟姉妹の中で、ご実家を継いだ方がご両親と同居し、ご両親の介護のお世話をするケースが多くあります。

こうしたケースでは、兄弟姉妹間で、ご両親の介護の負担が偏ったり、介護への意識のズレが生じることが往々にしてあります。

ご両親と同居している御家族は毎日のようにご両親の介護のお世話をし、離れて暮らしている兄弟姉妹はお盆やお正月にしか顔を出さない、あるいは、数ヶ月に1回か2回くらいしか顔を出さない、というケースは多くあると思います。
このようなケースではご両親と同居しているご家族には重い負担が生じますので、このご家族からすれば、他の兄弟姉妹は親の面倒を何も見ていない、あるいは、ほとんど面倒を見なかった、というように思うことになります。
一方で、他の兄弟姉妹からすれば、時間があるときには両親のところに行って外に連れ出し気分転換をさせた、とか、時に旅行に連れ出した、といった経験から自分たちも両親の面倒を見てきた、という意識を持つことがあります。

こうした状況で、ご両親が遺言書を作成せずに亡くなり、相続が始まった場合、どうなるでしょうか。

簡単なケースで説明していきます。

両親と2人のお子さん(男兄弟)という家族構成で、長男家族が実家を継ぎ両親と同居し、次男は実家を出ている、このようなケースで考えていきたいと思います。
実際、こうしたケースは数多くあります。

さて、例えばご両親のうち、お父さんが亡くなったけれどもお母さんはまだご存命、というように、ご両親のうち片方の親御さんがご存命であれば、その方の顔を立てる、その方が仲裁役になる、といったことから兄弟姉妹間で深刻な対立が生じる、ということは多くありません。

深刻な問題になりやすいのは、ご両親ともにお亡くなりになった後、つまり、相続人が兄弟姉妹のみの場合(亡くなったご両親の子どもだけの場合)です。
上記ケースで言えば、ご両親ともにお亡くなりになると、相続人は男兄弟2人のみになります。
ご両親と同居して晩年のお世話をしてきた長男からすれば、他の兄弟(次男)よりも自分の取り分が多くて当然だ、と思うでしょう。晩年の介護の負担はとても重いものですから、そのように思うことは無理からぬところではあります。

遺言書がない場合に長男のこのような言い分がすんなり通るか、というと、実際にはそうではありません。

そもそも遺言書がない場合の子の法定相続分は原則として全員同じ割合です。
上記ケースで言えば、長男・次男の法定相続分はともに2分の1で同じ割合です。

ある相続人の取り分を他の相続人よりも増やす制度として「寄与分」という制度が法律上認められていますが、この「寄与分」はたいへん曲者でして一筋縄ではいきません。

「寄与分」というのは、簡単に言うと、特定の相続人の貢献(=寄与)によって、被相続人の遺産が増加した、あるいは、本来減少すべきところ減少を免れた(=維持された)場合にその特定の相続人の取り分を他の相続人の取り分よりも多くする、という制度のことです。

ご両親の介護の場合には、それによってご両親の遺産が増加するということはありませんので、特定の相続人がご両親の介護をすることによってご両親の遺産が維持された、ということを主張していくことになります。
上記ケースで言えば、長男が両親の介護をずっとしたために、介護施設に行く必要がなくなり、その分の費用が浮いた、というように構成することになるのです。

このように述べると寄与分は認めてもらいやすそうにも思えますが、厄介なのは、寄与分は金銭に評価することを求められることが多い、ということなのです。
上記ケースで言えば、長男が両親の介護をずっとしたことにより介護施設に行く必要がなくなり、その分の費用が浮いた、ということを金銭で評価しなければならないのです。

この作業はたいへん困難を伴います。

ご両親の状態からして介護施設や介護サービスを利用する必要があったか否かの証明は難しいものがありますし、一定程度、介護サービスを利用する必要があったとしても、どの程度の費用が浮いたのか、どの程度、ご両親の遺産の減少を防ぐことができたのか、金銭に置き換えることは難しいことが多いのです。

また、離れて暮らしていた兄弟(次男)からすると、ご両親の介護の負担というのはなかなかわかりにくいことも多く、長男が多くの取り分を主張すると、それに反発して、「長男はそれほど両親の介護をしていたわけではない」とか「両親は晩年まで元気で長男家族の世話はさほど必要ではなかった」といった言い分が出てきがちです。時には、長男の介護の方法について厳しい意見が次男から出ることもあります。

また、ご両親と同居していると、家計の境界線が曖昧になることが多く(上記ケースで言うと、ご両親の家計と長男家族の家計が一体になってしまっているような場合です)、いざ遺産分割でもめ出すと、同居していなかった相続人(次男)から、長男は両親から金銭的援助を受けていた、従って、その分は(長男の)取り分から減らすべきだ、といった主張が出されることも往々にしてあるのです。

こうなると、完全に兄弟の関係はこじれてしまい、深刻な対立関係になってしまいます。
よく言われる「相続」が「争族」・「争続」になった、そうした状態に陥ってしまうのです。

我々が代理人として関与したケースでもこのようなケースは数多くあります。
上記ケースの「長男」(両親と同居して介護をしてきた相続人)の立場にある方が、
「親と同居して介護をするのは損なんですね。何もしない方がよっぽどいい。」
というとても残念で悲しい言葉を仰ることが本当に多くあるのです。

では、どうしたらよかったのか。。。。

長男の介護の労に報いる内容(例えば、長男の取り分を次男よりも多くする)の遺言書をご両親に書いてもらっておけばよかったのです。

長男からすれば、ご両親に遺言書を書くようにお願いすることはなかなか言いにくいことだと思います。
ですが、後になって、兄弟と深刻な争いになるとともに、ご両親のためを思ってしてきたお世話を「損をした」「しなければよかった」と思わないといけないような事態になることをお考え頂きたいと思うのです。

両親の介護をしてきたことに、遺言書という形で報いてくれた、

そうした形で「相続」が「争族」「争続」にならずに円満に終わる。

これが何より大切だと思います。


投稿者 南舘・北川・伊藤法律事務所

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